渡船業者が磯釣り客を岩場に渡す際の注意義務 | 福岡若手弁護士のblog

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福岡高裁1980/5/26

判タ426号203頁です。

磯釣り客が、島の岩場

までの渡し船を、渡船

業者に依頼しました。

その前日は、台風

15号が上海方向に

向けて北上中であった

ものの、まだ海上は

平穏であったため、

渡船業者は磯釣り客に

「高い所におれば安全

です。低い所は潮が

来て渡れなくなります」と

注意事項を指示した

うえで、磯釣り客を

岩場に渡し、渡し船で

引き返しました。

ところが、未明時刻に、

台風15号崩れの風や

うねりが影響し、岩場に

3~4mの潮の飛沫が

あがり、ついに3時間後

岩場の高い所を越えて

きた波にさらわれて、

遭難し死傷者がでました。

台風15号が接近しながら

磯釣りを強く希望した

磯釣り客にも自己責任と

いうか過失があることは

争いないでしょうが、

渡船業者に対して

刑事裁判所では有罪を

認定、すなわち、注意

義務違反がそこにあると

判断したのです。

「渡船業者としては、

被害者らに対し、

少なくとも風が強くなって

波が高くなるおそれがあり、

満潮時や波が高いときは

その岩場は危険である

ことを認識させたうえで、

最初の満潮が到来する

前の明るいうちにさらに

安全な場所に移動して

おくよう注意すべき義務が

あった」

 「なるほど、被害者らにも

渡船業者の口頭注意を

正確に理解せず、海が

しけたら渡船業者が迎えに

来てくれるはずと軽信

するような過失はある。

 しかし、その程度の過失の

存在は、一般の磯釣り客に

ありがちなことであり、

一般に磯釣りは素人が

余技で行うレクリエーションの

1種にすぎないため、渡船

業務というのは、磯釣り客に

その程度の過失があることを

想定して適切な注意を与える

ことが要求されるもので、

一般の磯釣り客にその

リスクを分担させて、渡船

業者の注意義務を軽減

すべき筋合いではない。

 渡船業者は磯釣り客が

自らの生命身体に対する

危険を回避するために

気象や釣り場の状況に即した

適切な行動をしてくれると

信頼して瀬渡しをすれば

足りるわけではない。」

 少し意訳していますが、

磯釣り客は気象や岩場の

安全についてレクリエーション

にとどまる程度の知識しか

有しないが、渡船業者は

船舶操縦免許・遊漁船

業務主任講習を済ませて

都道府県の営業許可を

受けたプロであるという

視点から、渡船業者の

安全配慮義務を厳しく

認定しています。確かに

渡船業者が岩場から

離れてしまうと、もはや

磯釣り客は孤立無援で

どこにも移動できない

状況に置かれるわけ

ですから、そのような場に

磯釣り客を誘導する

渡船業者に重い安全

配慮義務を課すことは

具体的に妥当でしょう。

わがままな磯釣り客を

甘やかしすぎている面も

無くはないですが、所詮

磯釣り客のほとんどは

アマチュアなんですから。

ろぼっと軽ジK